高橋是清自伝
2016.07.24
 最近、高橋是清自伝を読みました。上巻と下巻に分かれていて上巻は波乱に富んだ半生が描かれていて、下巻の後半はほぼ日露戦争の戦費を調達するために欧米で外債を募集する様子が描かれています。若い頃は学業優秀なのに優等生ではなく常識にはまらない破天荒な人生ですが、その破天荒さゆえに出来上がった人物像があったからこそ、後半の欧米の財界や王侯貴族から信頼を得て親交を結ぶ事が出来たのだと納得します。13歳でアメリカに留学、サンフランシスコ到着後オークランドのホームステイ先で奴隷同然の生活を強いられる。しかし、その経験があったからこそ、その後の人生の苦難を乗り切る事ができたのだと思います。

 私が子供の頃は1ドルが360円で海外旅行など夢のまた夢でした。もっと前は日本人は自由に海外に渡航出来ない時代もありました。なので、昔はごく少数の政府の要人くらいしか海外に行ってなかったのだろうと思い込んでいましたが、この自伝を読み明治時代には思っていたよりも多くの人々がアメリカやヨーロッパに行っていた事を知りました。そして是清がアメリカやヨーロッパを何度も行き来する様子はまるで現代の海外出張と同じ様にさえ感じます。飛行機や高速道路がある現代でも移動は疲れるのに、当時は船や汽車で移動していたのだから驚きです。

 前半の人生ドラマだけでも非常に面白いですが、後半の外債募集にまつわる話しには別の興味深さがあります。アメリカの資本家シフと親交をもち、ロンドンのロスチャイルドやカッセルと親交を持ち、ドイツのウォーバーグと親交を持ち、フランスの資本団やパリのロスチャイルドと親交を持つ。自伝にはそれら錚々たる面々とのやり取りが詳しく書かれており、当時世界を牛耳っていたユダヤ資本家達の素顔を少しだけ垣間みる事が出来たような気がします。ウィキペディアで表面的な情報を読む事しかなかった大物ユダヤ資本家たちについて、実際に本人と会ってきた人が語る話しは説得力や臨場感があり、彼らの本当の姿に少し近づけたような気になります。

 自伝は是清が52歳で第五次外債募集が成功したところで終わります。その後日銀総裁となり大蔵大臣となり総理大臣となり最後は2.26事件で凶弾に倒れるまでの人生の後半30年以上が描かれていません。是清が暗殺された直後に彼の寝室を見た記者は、机や本棚に几帳面に積まれた夥しい日記を見たそうです。その中には自伝の後の30年が書かれた日記もきっとあったはずです。そこには日本が坂道を下り出す切っ掛けになった日本政府がハリマンとの満州鉄道開発の契約を反古にした事件の背景や、その後のユダヤ資本家たちとの関係の変化や、2.26事件に至る経過などが描かれているはずです。誰かがその日記をみつけて出版して欲しいと切に願っています。そこにはこれから始まる新しい世界秩序の中で日本が再び舵取りを間違わないためのヒントがあるのではないかと思います。
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